« 2013年6月 | トップページ | 2013年8月 »

2013年7月

2013年7月24日 (水)

レプリカについて

こんにちは、学芸研究員の今井です。

突然ですが、当館で展示している資料に「レプリカ」は一つもありません。

以前来館なさった方はそれを聞いて大変驚いていらっしゃいましたが、自分の中では当たり前になっていたので、その反応が逆に新鮮でした。たしかに思い返してみれば、日本全国数多ある博物館・美術館にはレプリカの展示がめずらしくありません。なぜなのでしょうか?

ということで、今回は「レプリカ」についてすこしだけ考えてみたいと思います。

「レプリカ」が作成される最大の理由は、博物館における悩み、保存と展示の両立が難しいことによりまして、その方向から考察を加えることもできますが、今回は別の視点から考えてみたいと思います。

「レプリカ」とはなにか?

まずは博物館学的な分類から確認していきます。

博物館の資料は大きく分けて「一次資料」と「二次資料」に分けられます。

「一次資料」とは「直接資料」ともいいまして、実物資料そのものを指します。俗に「本物」とよばれるものですね。

一方の「二次資料」は別名「間接資料」、一次資料をなんらかの技法で「記録」することで発生する資料です。「二次資料」はまた「二次製作複合資料」と「二次製作資料」に分けられまして、前者はパノラマやジオラマが該当します。これらは拡大・縮小がかけられたり、内部構造を示したりするため、実物の完全コピーが目指されるものではありません。展示をよりわかりやすくするための手段といえます。

後者の「二次製作資料は拓本・写真・映像・実測図・模造などがあります。模造の中には「計測模造」と「型取り模造」があり、後者が博物館学的な意味での「レプリカ」になります。

以上を図で示すと以下のようになります。

Photo_2

レプリカは「型取り模造」と呼ばれる通り、実物資料の表面にシリコンゴムなどをあててその形を記録し、そこに樹脂などを流しこみ固めたものです。したがって製作されたものは実物とまったく同じ形になる一方で、材質は本物(一次資料)とは別ものになります。このことはなにを意味するのでしょうか?

まず言えることとして、「型取り模造(レプリカ)」が一次資料の形をコピーするものであるということは、翻ってみれば、そのにこそ資料の意味があると(学芸員に)みなされているということです。材質や見えないところの構造に意味がある場合、レプリカは不適切です。その意味で形質人類学が扱う骨の資料などは、そのの比較こそが重要なため、「レプリカ」との相性はいいといえるでしょう。

これに関する顕著な例として、明石原人化石の例が挙げられます。この化石の本物は東京大空襲により焼失してしまいましたが、のちにそのレプリカが発見され、後の研究においては一次資料に等しいほどの扱いを受けました。「型取り模造(レプリカ)」されたものは形に意味があるのです。

しかし一見逆説的なことに、「レプリカ」は、完全な形のコピー=客観的であるが故に、そのままでは具体的な意味をもちません。より正しく言えば、まだ意味を引き出されていません。どういうことか?

これは別の二次製作資料である「実測図」と比較してみるとよくわかります。実測図とは、文字通り対象となる資料(土器や民具など)を実際に計測して作図するものですが、これは制作された時点で意味を引き出されています。別の言い方をすれば、良くも悪くも客観的ではありません。

この理由は大きく二つあるかと思います。

一つは、実測図をとるにあたって資料の正面を決めるからです。資料の正面を決めること、これはつまり、無数にある視点からもっとも意味のあると思われる視点を(作図者が)選択するということです。

もう一つは模様・木目などの書き込みに際して、取捨選択が行われるからです。完全に平らな表面というのは現実に存在しない以上、見れば見るほど書きこむべき線は増えますが、作図者はその中から意味のある線を抜き出して描かざるえないのです。

以上のような意味で、実測図は制作された時点で意味が見出されています。

このことを踏まえて「レプリカ」を思い返してみると、その客観性=意味の引き出されていないさ、がよくわかるかと思います。これは逆に言えば、(形、表面から言えることに関しては)無限の意味の見い出しが、来館者の皆様にゆだねられているということでもあります。

かくして「レプリカ」は、「二次製作資料」の中でも少々特異な位置を占めており、ある意味では、かなり一次資料に近い性格をもつものといえるでしょう。

ただし重要なことは、「レプリカ」がコピーできるのはだけだ、ということでした。

ここまでくると次には、

「それではとは別のところに意味がある資料とはなにか?その資料の模造はどうするのか?」

「もしも技術が進歩して、材質、形、構造すべての面で完全なコピーができるようになったら一次資料と二次資料の区別はなくなるのか?」

といったことも考えてみたくなりますが、長くなりすぎましたのでこれはまた後日。

長文失礼いたしました。学芸研究員の今井でした。

参考文献

加藤有次『博物館学概論(POD版)』雄山閣 2003

加藤有次ほか編『新版・博物館学講座 第5巻 博物館資料論』雄山閣 1999

加藤有次ほか編『新版・博物館学講座 第9巻 博物館展示法』雄山閣 2000

全国大学博物館講座協議会西日本部会『新しい博物館学』芙蓉書房 2008

 

« 2013年6月 | トップページ | 2013年8月 »